AI議事録の文字起こしが荒いとき:ツールを替える前に見直す録音の5条件
目次
会議室の真ん中にスマートフォンを1台置いて録音したら、奥の席の発言だけ文字が抜けていた。そういう経験があると、「このツールは精度が低い」と判断して別のツールを探したくなります。ただ、4つのツールの公式ヘルプを読み比べると、どこも精度の話を録音の話から始めていました。ツールを替えても、同じ置き方で録れば、同じ場所で崩れるかもしれません。
本記事は、Notta、Otter.ai、Rimo Voice、Firefliesの公式ヘルプを2026年10月12日に確認し、共通して挙がっていた条件を5つに分けて整理したものです。同じ音声を4つのツールに通して精度を比べた記事ではありません。画面や設定名はプランやバージョンで変わるので、実際に操作するときは本文の公式リンクで最新の表示を確かめてください。
1. 雑音と、声のかぶりを先に減らす
どのヘルプも、最初に挙げているのは雑音です。
Otter.aiのヘルプは、背景の雑音を「不正確な文字起こしや音声の欠落のいちばん大きな要因」と説明しています。[1] 雑音で何を言っているか区別できないと、誤変換になるだけでなく、その部分がまったく文字にならないこともある、という書き方です。[1] Firefliesも、録音は静かな場所を選ぶように案内しています。[8]
もうひとつが、声のかぶりです。Otter.aiは、複数人が同時に話すと、不正確になる、または文字にならないことがあるとしています。[1] Nottaのヘルプも、2人以上で同時に発言しない、ゆっくりはっきり話す、方言や俗語を控える、と挙げています。[4] Rimo Voiceは、一人ひとり話す(声がかぶらない)ことを4つのポイントのひとつにしています。[6]
雑音は機材で減らせても、かぶりは機材では減りません。議事録をAIに任せる会議ほど、司会が「ひとりずつお願いします」と一言入れる価値があります。話し合いが盛り上がるほどかぶりは増えるので、冒頭で一度言っておくだけでも違ってきます。
2. マイクまでの距離は、使い方で目安が違う
「マイクに近づけ」と言われても、何センチなのかはツールによってばらばらです。公式の記載を並べてみます。
- Rimo Voice: 口元にマイクを近づける(理想は10cm以内)。マイクは1人1台が理想[6]
- Notta(マイクで録音する場合): 話者とマイクの距離は20〜60cm程度が理想[5]
- Otter.ai: 話している人から3フィート(約1メートル)以内に置き、録音中は動かしたり触ったりしない[1]
- Fireflies: 遠すぎても近すぎてもいけない、という書き方で、数字は示していない[8]
数字が違うのは、想定している場面が違うからだと読めます。Rimo Voiceの10cmは、全員が自分のマイクに向かって話す形です。Nottaの20〜60cmは、ひとりが自分のマイクで録る形です。Otter.aiの約1メートルは、机に置いたマイクで周りの人を拾う形に近いです。
Nottaは、近すぎても音が歪んだりノイズが乗ったりすると注意しています。[5] 近づければ近づけるほどよい、というわけではありません。
Nottaの解説ページには、同社が精度98.86%を出したときの条件も書かれています。静かな会議室(環境音が約40dB)で、話者と外部マイクの距離が1m、4人が発言をかぶらせずに話した結果、とあります。[5] 同じページに「実際の精度は話し方や音環境により大きく変わります」とも添えられています。[5] Notta自身が示した特定の条件での測定例で、どの会議でも出る値ではありません。ページの更新日は2023年8月と表示されています。[5]
3. マイクは種類と置き方で選ぶ
パソコンやスマートフォンの内蔵マイクで足りるかどうかは、人数で分かれます。
Nottaは、パソコンの内蔵マイクについて、複数人で使う前提の設計ではなく、限られた範囲しか拾えないと説明しています。[5] 複数人の会議を内蔵マイクで録るなら、マイクをなるべく中央に置くこと、より高い品質が欲しければスピーカーフォンのような外部マイクを使うことを勧めています。[5]
Otter.aiは、指向性で使い分けるよう案内しています。[1]
- 部屋にいる複数人を録る: 全方向の音を拾う無指向性マイク
- 自分の声だけを録る: 一方向の音を拾う単一指向性マイク。自分に向けて置く
Rimo Voiceの推奨環境のページは、場面ごとに具体的です。[7]
- オンライン会議: パソコンのマイクでも拾えるが、マイク付きヘッドセットのほうがよい。パソコンのマイクを使うなら、できるだけマイクの近くで話す
- ICレコーダーやスマートフォンで録る場合: 外付けの集音マイクを使う
- 講演会や勉強会: 口元との距離が近くなるハンドマイクやスタンドマイク
- 複数名の会議: 1人1マイクの備え付けシステムが最善。手軽に試すなら、机に置けるマイクを複数置く。超指向性タイプを適切に配置すれば、周りの音のかぶりを抑えられる
もうひとつ見落としやすいのが、Bluetoothイヤホンです。Nottaによると、一部のBluetoothイヤホンは8kHzの低いサンプリングレートでしか音を送れず、これが文字起こしの精度に影響することがあります。[5] 16kHzのWide Band Speech(HD Voice)に対応していて、端末上でも16kHzとして認識されていれば問題ない、という条件付きです。[5] ワイヤレスのヘッドセットで精度が落ちたときは、有線のマイクに替えて確かめると原因を切り分けられます。
4. 会議の音そのものが録れているか
雑音でもマイクでもないのに、相手の声だけ文字にならない、という場合があります。Otter.aiのヘルプが詳しく書いています。[2]
ブラウザでOtter.aiの録音を手動で始めて、ヘッドホンやイヤホンをしていると、会議の音声はスピーカーではなくヘッドホンに流れます。マイクはその音を拾えないので、自分の声だけが録れ、他の参加者の発言が文字になりません。[2] 対策として、公式が挙げているのは次の4つです。[2]
- デスクトップアプリを使う(パソコンから出ている音を直接録れる)
- Otter Notetaker(会議に参加して録るボット)を使う
- 可能なら、音声や動画のファイルを取り込む
- 取り込めない音なら、ヘッドホンを外してスピーカーの音をマイクで拾う
ノイズ抑制やエコーキャンセルの機能が、スピーカーの音を雑音と誤認して消してしまう場合もあります。Otter.aiのヘルプは、そうした機能を持つ例として、Dell製とHP製のパソコン、Krisp、Microsoft Teamsのアプリを挙げています。[2] 切り分けるには、これらの機能を一時的に切ってから、新しく録音して試します。[2]
さらに、パソコン標準のボイスレコーダー(WindowsのVoice Recorder、macOSのボイスメモ)で録れるかどうかを試すと、原因がパソコン側かOtter.ai側かが分かります。[2] ここまでの内容はOtter.aiの記載に基づくもので、他のツールでも同じ挙動になるかは、今回は確認していません。ただ、ヘッドホンの音をマイクが拾えないという仕組み自体は、マイク経由で録るツール全般に当てはまる話に思えます。
5. 言語の設定と、ファイルの質、辞書を確認する
録音が悪くないのに文字が外れるときは、入口の設定を疑います。
Nottaのヘルプは、結果が録音内容とまったく違う、または希望の言語で出ないときは、文字起こしの前に正しい発話言語を選んでいなかった可能性がある、と書いています。[4] 発話言語はノートの詳細ページで確認できます。[4]
録音済みのファイルを取り込む場合は、Nottaは音質のよいファイルを勧めています。[4] MP3のような圧縮形式は避け、録音時は基本的に非圧縮のWAVが最良、という案内です。[4] 音声が小さすぎるものも避けるように、とあります。[4] 後から取り込む場合は、ツールごとに容量や録音時間の上限があるので、取り込む前に各社の料金ページで確認してください。
固有名詞や社内用語は、辞書登録で減らせます。Nottaも辞書登録を精度向上の方法に含めています。[4] Rimo Voiceの辞書登録は法人プランの機能です。[6] 読みと表記の決め方、各ツールの登録数の上限は、固有名詞を辞書登録で直すに書きました。
録る前に、30秒だけ試す
重要な会議の前は、本番と同じ置き方で30秒だけ試し録りをしておくと安心です。Otter.aiのヘルプも、大事な録音の前にはマイクを試し、数語話して正しく文字になっているか確かめるよう勧めています。[3]
見るのは次の5点です。
- 自分の声と、いちばん遠い席の声の両方が文字になっているか
- エアコンやキーボードの音が、文字として混ざっていないか
- ヘッドホンをしたままでも、相手の声が文字になっているか
- 発話言語の設定が、実際に話す言語と合っているか
- 会議で多用する製品名や人名が、そのまま出ているか
ここで崩れる点が見つかれば、本番の前に置き方や設定を直せます。事前に試す観点を、ツール間で揃えておきたい場合はAI議事録ツールのトライアル評価シートが使えます。
長い会議では、途中の休憩も録音に影響します。Otter.aiのヘルプでは、15分を超える休憩は一時停止ではなく停止にして、再開時に新しい録音を始めるよう案内されています。[3] 一時停止のままにしておくと、約20分で自動的に終了扱いになり、再開できなくなります。[3]
それでも荒いときは
録音を整えても、AIの文字起こしが100%になることはありません。Rimo Voiceのヘルプは、現在の技術では話した内容を完璧に文字にすることはできず、人が文字にする負担を減らす目的で使ってほしい、と明記しています。[6] Firefliesも、文字起こしの質を上げる方法として、文字起こしの編集を挙げています。[8]
録音で減らせるのは、あとで直す量です。ゼロにはなりません。残った誤りは、共有する前に決定事項だけでも確認してください。手順は決定事項を会議後10分で確認する方法にあります。要約そのものが届かない場合は、AI要約が届かない・ずれているときも参考になります。話者名のずれは、話者名がずれたときの直し方で扱っています。
そのうえで、条件を整えても日本語の精度が足りないと感じたら、そこで初めて、ツールを替える判断になります。候補の見比べはAI議事録ツール5選の比較から始められます。
まとめ
文字起こしが荒いときは、雑音とかぶり、マイクまでの距離、マイクの種類、会議の音が録れているか、言語とファイルの質の順に見直します。距離の目安は、Rimo Voiceが10cm以内、Nottaが20〜60cm、Otter.aiが約1メートルと、1人1台なのか、机の上に1台なのかで変わります。
次の会議の前に、本番と同じ置き方で30秒の試し録りを1本だけ取ってください。いちばん遠い席の声が文字になっていれば、その置き方で進められます。
Sources
[1] https://help.otter.ai/hc/en-us/articles/18934488820887-Tips-on-improving-speech-transcript-accuracy — Tips on improving speech & transcript accuracy – Otter.ai Help Center [2] https://help.otter.ai/hc/en-us/articles/4403627500951-Troubleshoot-audio-recording-problems — Troubleshoot audio recording problems – Otter.ai Help Center [3] https://help.otter.ai/hc/en-us/articles/40917035359255-Otter-Recording-Best-Practices-Pause-Resume-and-Upload — Otter Recording Best Practices: Pause, Resume and Upload – Otter.ai Help Center [4] https://support.notta.ai/hc/ja/articles/4402669677851-%E6%96%87%E5%AD%97%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%81%97-%E9%9F%B3%E5%A3%B0%E8%AA%8D%E8%AD%98-%E3%81%AE%E7%B2%BE%E5%BA%A6%E3%82%92%E4%B8%8A%E3%81%92%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB%E3%81%AF — 文字起こし(音声認識)の精度を上げるためには? – Notta ヘルプセンター [5] https://www.notta.ai/how-to-improve-transcription-accuracy — 音声認識精度を高めるには – Notta [6] https://guide.rimo.app/ja/articles/8879911-%E6%96%87%E5%AD%97%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%81%97%E7%B2%BE%E5%BA%A6%E3%82%92%E9%AB%98%E3%82%81%E3%82%8B — 文字起こし精度を高める | Rimo Help Center [7] https://guide.rimo.app/ja/articles/8835901-%E6%8E%A8%E5%A5%A8%E7%92%B0%E5%A2%83 — 推奨環境 | Rimo Help Center [8] https://guide.fireflies.ai/articles/6455008939-improve-the-quality-of-speech-recognition — Improve the quality of speech recognition | Fireflies Knowledge Base